果実を加えていないのに、ぶどうの香り?|PHILOCOFFEA「708 コロンビア Aroma Nativo」が衝撃的だった

果実を加えていないのに、ぶどうの香り?|PHILOCOFFEA「708 コロンビア Aroma Nativo」が衝撃的だった

知人からいただいたPHILOCOFFEA「708 COLOMBIA AROMA NATIVO PB1093」。果実を加えていないのにぶどうやライチのような強い香り。Honey Double Fermentationという精製方法の秘密と、飲んでみた正直な感想を記録します。


目次
  1. この記事でわかること
  2. はじめに — 知人からもらった一杯に驚かされた
  3. PHILOCOFFEAとは
  4. 飲んでみた感想
  5. ホットとアイス、どちらも試してみた
  6. 2週間飲み続けて感じた変化
  7. 「インフューズドでは?」と思った理由
  8. なぜ果実を加えていないのにこの香りなのか
  9. 正直な注意点
  10. 抽出メモ
  11. まとめ — 精製でコーヒーはここまで変わる

この記事でわかること

  • PHILOCOFFEA「708 コロンビア Aroma Nativo PB1093」を飲んだ正直な感想
  • インフューズドコーヒーと発酵系プロセスの違い
  • なぜ果実を加えていないのにここまで果実の香りがするのか
  • ホットとアイスの飲み比べ、2週間飲み続けて感じた味の変化

はじめに — 知人からもらった一杯に驚かされた

知人からコーヒー豆をいただきました。PHILOCOFFEAの「708 COLOMBIA AROMA NATIVO PB1093」。袋の封を切った瞬間、思わず手が止まりました。

ライチやぶどうのような、甘く華やかな香り。コーヒーの袋を開けたはずなのに、まるでフルーツの袋を開けたような香りが立ち上ってきたのです。

正直、最初に思ったのは「これ、インフューズドコーヒーでは?」ということでした。以前、発酵時にパッションフルーツを加えたインフューズドコーヒーを自家焙煎して飲んだことがあり、その時の「果実の風味がコーヒーに乗っている」感覚に近いものを感じたからです。

ところが、調べてみると違いました。少なくとも商品説明上は、果実を加えて風味付けしたコーヒーではなく、コーヒーチェリーそのものの発酵プロセスで香りを引き出している豆でした。それなのに、この果実感。今回はその驚きと、「なぜこんな味になるのか」を調べてわかったことをまとめます。

結論から言うと、708 Colombia Aroma Nativoは、ぶどう・ライチ系の香りが非常に強い浅煎りコーヒーでした。苦味よりも果実感を楽しむタイプで、発酵系の華やかなコーヒーが好きな方にはかなり刺さる一杯だと思います。一方で、昔ながらの苦味やコクを求める方には少し驚きが強いかもしれません。

708(左)と011 TOKYO BLEND(右)のパッケージ。今回のレビューは左の708です

PHILOCOFFEAとは

PHILOCOFFEA(フィロコフィア)は、World Brewers Cup 2016でアジア人初の世界チャンピオンとなった粕谷哲さんが代表を務める千葉・船橋のロースタリーです。生豆の選定から焙煎、品質管理まで一貫して行っており、「テイストファースト」を掲げたコーヒーづくりで知られています。

ハンドドリップをされる方なら、粕谷さん考案の「4:6メソッド」をご存知の方も多いかもしれません。豆には同封のリーフレットが入っており、ブランドの成り立ちやショップリストなどが丁寧に紹介されていました。

飲んでみた感想

スペックは以下の通りです。

項目内容
ロット名708 COLOMBIA AROMA NATIVO PB1093
生産国コロンビア(ウィラ県ピタリート)
標高1,700〜1,750m
品種Pink Bourbon(ピンクブルボン)
生産処理Honey Double Fermentation
収穫日2025年10月8日
焙煎度浅煎り
フレーバーノートGrape candy, Peach, Lychee, Prune, Honey ほか

※フレーバーノートは公式商品ページの記載に基づきます。

まず香り。封を切った時の香りがすごい。これに尽きます。グレープやライチの香りがダイレクトに立ち上がってきて、「コーヒーの袋を開けた」という感覚ではありません。

銅のメジャースプーンに入った708の豆とパッケージ

抽出は、COFFEE COUNTYのコーヒー教室で教わった方法をベースにした、いつものペーパードリップで淹れました(教室で使用した器具とは異なるものを使用しています)。PHILOCOFFEAさんはハリオスイッチでのレシピを推奨されていますが、まずは慣れた方法で素直に味を見たかったためです。

中粗挽きにした粉からも、すでにフルーツの香り。お湯を注ぐと蒸らしの段階から甘い香りが広がります。

中粗挽きにした708の粉

蒸らし中、甘い香りが広がる様子

飲んでみると、スッキリとした酸味と甘み。そして何より果実感が非常に強い。ライチやグレープの香りがそのまま抽出されている、という表現が一番近いと思います。フレッシュな果物というより、凝縮されたジュースのような濃密な甘さ。液色も浅煎りらしい透明感のある赤褐色で、見た目からすでに紅茶や果実のジュースを思わせます。完全に参りました。ここまで香りで驚かされたコーヒーは、久しぶりです。

抽出後の透明感のある赤褐色の液色

ホットとアイス、どちらも試してみた

せっかくなのでアイスコーヒーでも飲んでみました。

アイスにすると酸味が際立って、とてもフレッシュな印象。暑い日にゴクゴク飲みたくなる爽やかさです。一方ホットは甘みを感じやすく、香りとのバランスが取れている印象でした。個人的にはホットの方が好みです。この豆の魅力である「凝縮されたジュースのような甘さ」は、温かい方がより伝わってくると思います。

2週間飲み続けて感じた変化

焙煎日は2026年5月27日。私は6月4日(焙煎から8日目)から約2週間かけて飲みました。

公式の推奨エイジングは「焙煎日から15日後〜」とのこと。実際、飲み始めの頃は酸や香りがやや尖った印象だったのが、日を追うごとに角が取れて味がまとまってくる感覚がありました。推奨通り15日目以降は、甘み・酸味・香りの一体感が増して飲みやすくなった印象です。

とはいえ、果実のような香りは最後の一杯まで衰えることなく、いつ飲んでも美味しかった。この個性の強さと持続力は特筆ものです。浅煎り好きの方は、エイジングによる変化も含めて楽しめる豆だと思います。

「インフューズドでは?」と思った理由

ここまで果実の風味が強いと、「何かフルーツを加えているのでは」と疑いたくなります。

実際、そういうコーヒーは存在します。「インフューズドコーヒー」と呼ばれ、精製の発酵段階で実際に果実などを加えて風味を付与する手法です。ただし、インフューズド、コーファーメンテッド、アナエロビックなどの呼び方は販売店や生産者によって使われ方に幅があります。ここでは、果実などを発酵時に加えて風味を付与するタイプを便宜上「インフューズド」と表現しています。

私が以前飲んだのは、コロンビアのCofinet社による「パッションフルーツ」というロット。発酵の段階でパッションフルーツを加えて72時間の嫌気性発酵を行うインフューズド・ハニー製法の豆で、生豆本舗で販売されていた「コロンビア Cofinet パッションフルーツ」の生豆を購入し、自家焙煎しました。甘酸っぱいトロピカルな風味がコーヒーに乗っていて、今までのコーヒーにはなかった全く新しいコーヒー体験でした。

今回の708も、第一印象はそれに近い「果実がそのまま香る」感覚。だから真っ先にインフューズドを疑ったのですが、PHILOCOFFEAさんの商品説明を読む限り、果実を加えて風味付けしたタイプではなく、発酵プロセスによってチェリー本来の香りを引き出している豆のようでした。では、この果実感はどこから来るのか。

なぜ果実を加えていないのにこの香りなのか

答えは、徹底した品質管理と発酵プロセスの設計にありました。

このコーヒーを手がけるのは、コロンビアの「Aroma Nativo」という団体。農園そのものではなく、ウィラ地方の農園からコーヒーチェリーを買い付け、自らのプラントで精製を行う生産者です。精製を担当するのはLuis Marcelino(ルイス・マルセリーノ)さん。PHILOCOFFEA公式ページの説明をもとに、自分なりに整理すると——

1. 完熟チェリーだけを使う

最も熟度の高いチェリーのみを厳選し、さらに細かなハンドピックを重ねるため、最終的に生豆として残るのは収穫したチェリー重量の17%程度とのこと。果実としてのチェリーが最高の状態のものだけを使っているわけです。

2. 収穫日ごとのロット管理

ロット名の「PB1093」は、品種(Pink Bourbon)とその日に収穫されたチェリーの重量を表しているそうです。つまり1ロット=1収穫日。この豆でいえば、2025年10月8日に収穫されたチェリーだけで作られています。複数農園・複数日のチェリーを混ぜて精製するのが一般的な中で、収穫日や品種ごとに細かく管理し、それぞれに適した精製方法を選ぶという姿勢は徹底しています。

3. 二段階の発酵(Honey Double Fermentation)

嫌気性環境での一次発酵の後、果肉を除去し、ミューシレージ(粘液質)が付いたまま樽内で二次発酵。在来菌と選抜された酵母株を使ってフレーバーを引き出しているとのこと。その後、8日間かけて乾燥させ、約3か月の安定化期間を経て出荷されるそうです。発酵だけでなく、その後の工程まで含めて設計されています。

つまり、果実を「加える」のではなく、コーヒーチェリーという果実そのものが持つポテンシャルを、発酵技術で限界まで「引き出して」いる。インフューズドが外から風味を足すアプローチだとすれば、こちらはチェリー自身の風味を増幅するアプローチです。

飲み比べた率直な感想として、外から加えたものではない分、コーヒーとしての一体感があるように感じました。果実の風味とコーヒーの酸味・甘みが分離せず、一つの味として完成している印象です。

詳しい背景はPHILOCOFFEAさんの商品ページに丁寧に書かれているので、興味のある方はぜひ読んでみてください。

正直な注意点

絶賛ばかりになってしまったので、正直な注意点も書いておきます。

  • 執筆時点で、この豆はすでに完売しています。 そして「1ロット=1収穫日」という性質上、全く同じロットが再入荷することは基本的にありません。徹底したロット管理の裏返しですが、気になるロットは出会った時が買い時、ということでもあります。Aroma Nativoの別ロットやPHILOCOFFEAの他のラインナップは公式オンラインストアでチェックできます。
  • 発酵系の強い果実感は好みが分かれます。 「コーヒーらしい苦味とコク」を求める方には、フルーティーすぎると感じられるかもしれません。逆に「コーヒーは苦くて飲めない」という方にこそ刺さる可能性のある味です。
  • なお、本記事にPHILOCOFFEAのアフィリエイトリンクは含まれません。知人からいただいた豆が素晴らしかったので、純粋に紹介しています。

抽出メモ

  • 抽出方法:ペーパードリップ(COFFEE COUNTYのコーヒー教室で教わった方法ベース。教室で使用した器具とは異なるものを使用)
  • 挽き目:中粗挽き(PHILOCOFFEAさんの推奨は粗挽きですが、いつもの設定で淹れました)
  • 浅煎りなので、湯温はやや高めでしっかり成分を引き出す方向で

PHILOCOFFEAさん推奨のハリオスイッチのレシピ(豆20g、湯300g、90℃/最後の注湯のみ70〜80℃)も同封されていたので、次はこちらでも試してみたいと思います。同じ豆でも抽出方法でどう表情が変わるか、楽しみです。参考までに、レシピの数値だけ自分なりに表にまとめておきます(デザインは同封カードとは異なり、数値のみ引用しています)。

HARIO Switch レシピ

項目内容
豆量20g
挽き目粗挽き
湯量300g(1:15)
湯温90℃(最後の注湯のみ70〜80℃)
時間バルブ注湯量合計
0:0040〜50g40〜50g
0:4070〜80g120g
1:3080g200g
2:10100g300g
2:45
3:30完成

HARIO V60 レシピ

項目内容
豆量20g
挽き目粗挽き
湯量300g(1:15)
湯温浅煎り 93〜90℃ / 深煎り 86〜83℃
時間注湯量合計
0:0060g60g
0:4560g120g
1:3060g180g
2:1060g240g
2:4060g300g
3:30完成

まとめ — 精製でコーヒーはここまで変わる

農園でコーヒーの木を育てる立場として、栽培の話には日頃から触れていますが、今回改めて感じたのは「チェリーから生豆までの工程(精製)が味に与える影響の大きさ」です。

  • 果実を加えるインフューズドコーヒー:新しい風味の世界を切り開く面白さ
  • Aroma Nativoのような発酵設計:チェリー本来の果実感を極限まで引き出す凄み

どちらも「コーヒーってこんな味がするんだ」と驚かせてくれる存在ですが、果実を加えずにここまでの果実感を実現できるという事実は、精製技術の奥深さを物語っています。

「コーヒーの味の違いがよくわからない」という方にこそ、一度飲んでみてほしいタイプの一杯です。きっと、コーヒーの概念が少し変わります。