
南阿蘇のコーヒー農園で教えてもらった一冊|石脇智広さん『プロが教える「コーヒー」とっておきの楽しみ方』を読んで
南阿蘇の後藤コーヒーファーム・後藤さんから教えていただいた石脇智広さんの一冊。読み終えて、手元のイルガチェフェ・アリチャG1ナチュラルで試したいことが増えました。
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目次

南阿蘇の後藤コーヒーファームへ、次回の訪問についてメールをした際、後藤さんから一冊の本を教えていただきました。
石脇智広さんの『プロが教える「コーヒー」とっておきの楽しみ方』です。
石脇さんは、コーヒーをはじめとする食品を扱う石光商事の前社長。
後藤さんのコーヒー栽培を当初から応援してこられた方だと、メールで教えていただきました。
現在は石光商事の特別顧問で、博士(工学)。同社の研究開発室長を経て、2016年から9年間代表取締役を務められた後、現場に戻られています。全日本コーヒー検定委員会の名誉鑑定士でもあります。
南阿蘇でコーヒー栽培を始めた頃から後藤さんを応援してきた方が書いた本。

そう聞くと興味が湧き、さっそく購入して読んでみました。
読み終えて感じたのは、これは単なる「おいしいコーヒーの淹れ方」の本ではないということでした。
専門的なのに、初心者にも読みやすい
この本を読んでまず感じたのは、書かれている内容にきちんとした根拠があることでした。
コーヒーについて感覚だけで語るのではなく、測定結果や研究をもとに「なぜそうなるのか」が説明されています。
例えば、コーヒー豆に含まれるショ糖や脂質。
スペシャルティコーヒーについても、「品質が高い」「おいしい」という言葉だけで終わらず、その違いを成分から考えていきます。
普段私たちは、「甘い」「香りがいい」「口当たりが滑らか」といった言葉でコーヒーを表現します。
しかし、その感覚の背景には何があるのか。
数字や科学の側から見ていくと、普段飲んでいる一杯が少し違って見えてきます。
一方で、決して難しい専門書ではありません。
途中には分かりやすいイラストが入り、専門的な内容を初心者でも読み進められるよう工夫されています。
長年コーヒー業界に携わり、科学的な研究を行い、実際に生産国にも足を運んできた人の経験と知識が、一冊の中に整理されているように感じました。
水も「なんとなく」ではなく測って考える
特に印象に残ったのが、水についての話です。
コーヒーに使う水については、硬度をはじめさまざまな説や経験則を目にします。
この本では、実際に香りを測定した研究結果も踏まえて、水によってコーヒーがどのように変わるのかが論じられています。
この「実際に測ってみる」という姿勢が、本の随所にあります。
「私はこう感じる」だけではなく、「測定すると、実際にはどうなのか」という視点からコーヒーを考える。
研究者としてコーヒーに向き合ってきた石脇さんならではの部分だと思います。
抽出を「成分が動く過程」から考える
抽出についての説明も印象に残りました。
本の中では、成分ごとに湯へ移動する速さが違うことが、次のように説明されています。
酸味成分は速く、軽やかな苦味成分はそれよりもやや遅く、重厚な苦味成分はゆっくりゆっくりと移動します。
— 石脇智広『プロが教える「コーヒー」とっておきの楽しみ方』(三笠書房・知的生きかた文庫)P98
さらに抽出は、大きく二つの過程で考えられます。
一つは、コーヒー粉の表面にある成分が湯へ溶け込んでいくこと。
もう一つは、粉の内部にある成分が表面側へ移動してくることです。
こうした考え方を知ると、「何分で抽出するか」「何回に分けて注ぐか」というレシピだけを覚えるのとは違って見えてきます。
なぜ抽出時間を延ばすと味が変わるのか。
なぜ挽き目を変えると味が変わるのか。
抽出を理解するための土台になる考え方だと感じました。
ドリッパーを歴史や位置付けから知る
さまざまな抽出器具についても紹介されています。
面白かったのは、「この器具はこう使う」と説明するだけではないことです。
それぞれの特徴だけでなく、歴史や位置付けまで書かれています。
コーヒーを始めたばかりの頃、店頭に並ぶたくさんのドリッパーを見ても、「結局どれを選べばいいのだろう」となりがちです。
それぞれがどんな考え方から生まれ、どんな特徴を持つのかを知れば、器具を選ぶ基準も見えてきます。
さらに、最近カフェでも目にする機会が増えたフラットホワイトについても触れられています。
オーストラリアやニュージーランドなどで親しまれてきたエスプレッソベースの飲み物まで扱われており、昔ながらのコーヒーだけにとどまらないところも印象的でした。
オーブントースター、そして「揚げる」焙煎
焙煎についても、「そんな方法があるのか」と思うものがいくつもありました。
例えばオーブントースターを使った焙煎。
さらに、コーヒー豆を「揚げる」という方法まで登場します。
私は現在、小型の直火式焙煎機を使って自宅で焙煎しています。
普段は焙煎機の温度や時間を考えることが中心ですが、この本を読むと、「そもそも生豆に熱を加えるとはどういうことなのか」という、もう少し広い視点から焙煎を考えてみたくなりました。
知らなかった方法に出会えることも、この本の楽しさの一つです。
生産国の「リアル」が書かれている
内容は化学だけではありません。
世界のコーヒー生産国についても、一章を使って書かれています。
印象的だったのは、実際にさまざまな国へ足を運んできた人だからこそ書ける内容になっていることです。
統計や一般的な産地紹介にとどまらず、その国でコーヒーがどう作られ、どう扱われ、人々がどう関わっているのか。
現地を訪れてきた経験が、文章の随所に感じられました。
さらに、この本にはQRコードが付いています。
読み進めながら読み取ると、動画や写真を見ることができます。
エチオピアのコーヒーセレモニーの様子もそのひとつでした。
文章で読んで想像していた場面を、実際の映像で見る。
生豆を煎るところから一杯が注がれるまでの流れが目で追えるので、理解がより深まりました。
栽培、生産、流通、焙煎、抽出。
一杯のコーヒーを一方向から見るのではなく、「木からカップまで」をさまざまな角度から見ていく本です。
From Tree to Cupという名前でこのブログを書いている私にとっても、とても興味深い内容でした。
第6章の最後にあるコラム「日本でのコーヒー産業を考える。」では、南阿蘇のコーヒーについても触れられています。
石脇さんが南阿蘇を訪れた際、地元の高校生が育てたコーヒーの木から収穫したできたての生豆を、やきたて、挽きたて、淹れたてで出してもらったときのことが書かれていました。
そこで印象的だったのが、「つくり手の思いを直に感じられることが大きな付加価値であることを教えてくれました。」という言葉でした。
私自身、南阿蘇の後藤コーヒーファームを訪れ、木が育ち、花が咲き、チェリーが実る過程を見てきました。
そうした経験があるからこそ、この部分は特に身近に感じました。
コーヒーは味だけでなく、どこで誰が育て、どんな思いで一杯につながっているのか。
その背景まで含めて価値になるのだと改めて感じます。
この本を読んで一番試したくなった「ブレンド」
そして、この本を読んで特に自分で試したくなったのがブレンドです。
異なる産地の豆を組み合わせるだけでなく、同じ豆でも焙煎度を変えて混ぜることで、味に幅を持たせる方法などが紹介されています。
自家焙煎をしている私には、とても興味をそそられる内容でした。

ちょうど今、自宅にはエチオピア・イルガチェフェ アリチャ G1 ナチュラルの生豆があります。
袋の推奨焙煎度はシティローストと書かれています。
例えば同じ豆を異なる焙煎度に仕上げ、それぞれを単体で飲んだ場合。
さらに比率を変えてブレンドした場合。
味がどのように変化するのか比べてみる。
これだけでも面白い実験になりそうです。
WashedとNaturalを組み合わせてみたい
もう一つ気になったのが、エチオピア・イルガチェフェについての記述でした。
水洗式(Washed)の豆に、非水洗式(Natural)の豆を少量混ぜて使うこともあると書かれています。
これを読んで思い出したのが、以前購入した豆香洞コーヒーのエチオピアでした。
同じエチオピア、同じイルガチェフェでも、精製方法によって香味は大きく変わります。
今手元にあるのはナチュラルなので、試すには水洗式のイルガチェフェを買い足す必要があります。
Washedだけ。
Naturalだけ。
WashedをベースにNaturalを少量加えたもの。
同じ条件で飲み比べてみたら、どんな違いが出るのでしょうか。
水洗式の豆を用意して、実際に試してみたいと思っています。
家で育てているコーヒーの木にも、新しい疑問が
栽培についても、個人的に気になる話がありました。
カネフォラ種は自家受精できないとの記述がありました。
一本だけを育てている場合には、花が咲いても実がならない可能性があります。
そのため、ホームセンターなどで家庭栽培用のコーヒーの木を購入する場合には、アラビカ種であることを確認した方がよい、という内容です。

これを読んだとき、「うちの木は何の種類なのだろう」と思いました。
私が自宅で育てているコーヒーの木は、もともとスーパーで購入したもの。
品種は分かりません。
後藤コーヒーファームでは、実際に花が咲き、コーヒーチェリーが育っていく木を見てきました。
一方、自宅の木は将来花を咲かせたとして、本当に実をつけるのでしょうか。
葉や樹形からある程度の推測はできても、断定はできません。
種から育てているコーヒーの木とあわせて、経過を引き続き見守っていきたいと思います。
私にとっては「コーヒーの教科書」
読み終えて、この本を一言で表すなら、「コーヒーの教科書」という表現が一番近いように思います。
例えば学校で化学や歴史を学ぶとき、教科書と資料集があります。
珍しい道具や細かなテクニックをたくさん集めた「資料集」というよりも、コーヒーについて考えるための基本を順序立てて学んでいく「教科書」。
私にはそんな印象でした。
一度読んですべてを覚えるというより、焙煎や抽出をしていて疑問が出てきたときに、「そういえば、あの話が書いてあった」ともう一度開きたくなる本です。
初心者にも読みやすく、それでいて実際に焙煎や抽出をしている人にも新しい発見がある。
長く手元に置いておきたい一冊になりました。
本を読んだ後に聴いた「COFFEE TALK SESSION」
後藤さんからは、本とあわせてもう一つ教えていただきました。
鎌倉の「café vivement dimanche(カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュ)」のマスター、堀内隆志さんがパーソナリティを務める『COFFEE TALK SESSION』です。
石脇さんが本の出版にあわせてゲスト出演されており、私も本を読み終えた後に聴いてみました。
面白かったのは、パーソナリティの堀内さんが本の中で着目していた部分と、私が読んでいて心に残った部分が必ずしも同じではなかったことです。
「そこに注目するのか」と思うところもいくつかありました。
私自身は本を読んだときにはそれほど気に留めていなかった部分についても、堀内さんが質問し、それに石脇さん本人がコメントされます。
著者自身の言葉で説明を聞くことで、「そういう意味だったのか」と、本の内容をもう一段深く考えることができました。
一冊の本は、読む人によって引っかかる場所が違います。
自分一人で読んだだけでは通り過ぎていたところを、別の読み手の視点を通してもう一度考えられる。
本を読んだ後にPodcastを聴く面白さを感じました。
私は今回、後藤さんに教えていただくまで『COFFEE TALK SESSION』という番組を知りませんでした。
実際に聴いてみると、番組そのものがとても面白い。
過去の放送も聴けるようなので、石脇さんの出演回だけでなく、これからも聴いてみようと思っています。
一冊の本から、次に試したいことが増えた
もし書店で偶然この本を手に取っただけなら、ここまで自分のコーヒー体験と結びつけて読むことはなかったかもしれません。
南阿蘇でコーヒーを育てる後藤さんがいて、その栽培を当初から応援してきた石脇さんがいる。
後藤さんから一冊の本を教えていただき、読んでみる。
さらに石脇さん本人が語るPodcastを聴いてみる。
一冊の本を読んで知識が増えただけでなく、次の実験や疑問につながった。
それが、私にとってこの本を読んで一番良かったことかもしれません。
まずは手元のイルガチェフェから試してみるつもりです。
結果はまた記事にまとめる予定です。
コーヒーについて知るほど、一杯の向こう側にあるものが少しずつ増えていくように感じます。
書誌情報

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | プロが教える「コーヒー」とっておきの楽しみ方 ——「おいしさ」を引き出す知識とコツ |
| 著者 | 石脇智広 |
| イラスト | 川口澄子 |
| 出版社 | 三笠書房(知的生きかた文庫) |
| 発売日 | 2026年8月10日 |
| ISBN | 978-4-8379-8984-4 |
| 定価 | 891円(本体810円+税10%)※2026年9月時点 |
目次
- 序章/第1章 コーヒーの豆知識
- 第2章 コーヒーをおいしく淹れる
- 第3章 挽きたてのおいしさを知る
- 第4章 けっこう簡単! やきたてのコーヒーを自分でつくる
- 第5章 ブレンドでさらに広がるコーヒーの楽しみ
- 第6章 世界のコーヒー生産国
- 第7章 もっと知りたいコーヒーのこと
なお、この本が文庫であることも、読んでみて良かった点のひとつでした。
片手で持って読める大きさで、カバンやポケットにも入ります。
喫茶店で一杯を待つ間や、移動中の短い時間に少しずつ読む。
焙煎や抽出をしていて疑問が出たときに、作業場所のすぐそばに置いておく。
内容は本格的ですが、持ち歩きやすさという意味では気軽に付き合える一冊です。
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